田邊 裕貴私も実際の案件でも生成AIを取り入れ始めています。
生成AIを使用する立場として、著作権の注意点を調べてまとめました。
法律に関する話は私も専門ではないため、最終的には専門弁護士などにご確認ください!
MiniMax H3、Seedance 2.5…。 ここ最近だけでも、AI動画生成モデルが立て続けにリリースされていますよね。「うちの会社もAIで動画作れば安く早くできるのでは?」と考える企業の方、増えてきたのではないでしょうか。 実際、クオリティの進化スピードには私も驚かされます。
ただ、発注する側として一つだけ気をつけてほしいことがあります。
それが著作権まわりのリスクです。
「みんな使い始めているから大丈夫でしょ」と思っていると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。 今回は制作を発注する立場の方向けに、AI動画生成の著作権について知っておいてほしいことをまとめてみます。
- 事前にチェックしておきたい注意点
- Adobe Fireflyは本当に「唯一安全」なのか
- 著作権を侵害してしまったらどうなるのか
- 制作会社に依頼する際、何を確認すればいいか
■ 記事の信頼性
この記事を書いている私は、アニメーション制作をして7年目。
企業アニメーションを中心に制作しています。
個人デザイナーとして活動し、企業や官公庁の多数の制作実績があります。
大手スタジオが実際に提訴している
まず知っておいてほしいのが、これは「理屈の上の話」ではなく、既に法廷で争われている現在進行形の問題だということです。
Disney、Universal、Warner Bros. Discoveryの3社は2025年9月、動画生成AIを提供するMiniMaxを提訴しました。 理由は、Hailuo AIがダース・ベイダーやミニオンズといった著作権キャラクターを、簡単なプロンプトで生成できてしまうこと。
MiniMax側は却下を申し立てたようですが、2026年5月に判事はこれを退け、訴訟は今も続いています。
「有名キャラクターが生成できてしまうこと」自体が、モデル提供企業の法的責任として問われている段階まで来ているんですね。 そしてこれは、AIを使って動画を発注する企業側にとっても、決して他人事ではありません。
「知らなかった」は通用しない、という前提
生成AIの著作権侵害を判断する際、よく使われるのが「類似性」と「依拠性」という2つの観点です。
類似性:生成物と既存の作品がどれくらい似ているか
依拠性:既存の作品にもとづいて生成したかどうか
ここで注意したいのが、制作者や依頼者が元の作品を知らなくても、AIがその作品を学習データとして使っていれば、法的には依拠関係が認められる可能性があるという点です。
ですので発注する立場であっても、最低限注意点とリスクを知っておいたほうが安心です。
事前にチェックしておきたい注意点
キャラクターやロゴが既存作品に似てしまうリスクは、なんとなくイメージしやすいと思います。
ここからは、それ以外に見落としがちな注意点を整理します。事前に確認しておくと安心なポイントです。
1. 肖像権・パブリシティ権
AI動画生成は、実在の人物、特に有名人の顔や姿をかなりリアルに生成できてしまいます。 本人の許可なくその容姿や氏名を使った動画を公開すると、肖像権やパブリシティ権の侵害になり得ます。
制作の打ち合わせで「〇〇さんみたいな爽やかなイメージで」と、有名人を例に挙げて発注することもあると思います。 イメージを伝えるうえでは自然なことですが、AIはその人物に寄せた顔をそのまま出してくることがあるので、結果的に肖像権・パブリシティ権の侵害につながる可能性があります。
発注する際も、「有名人の名前を出したイメージ共有」がそのままプロンプトに使われていないか、制作会社と一度確認しておくと安心です。
なかには、AIが生成した架空の人物のはずが、学習データの影響で特定の実在人物にかなり近い顔になるケースもあるかもしれません。
また素材サイトや生成AIサービスで「肖像権フリー」と謳われている人物素材を使う場合も、油断は禁物です。「フリー」が指す範囲の確認が必要です。
生成AIでポーズを変え動画にすることがOKなのかグレーな可能性もあります。
「肖像権フリー」という表記を鵜呑みにせず、実際にどこまで保証されているのか利用規約を確認してもらう、あるいは念のため人物の顔を画像検索で確認してもらう、といった一手間を制作会社にお願いしておくと安心です。
2. 建築物・場所・ランドマーク
自社ビルや店舗、あるいは有名な観光地を背景にした動画を作りたい、というご要望も多いと思います。 建築物自体にも著作権が及ぶ場合があり、特に内装デザインや現代建築の外観を強く参照した生成には配慮が必要です。
私有地・商業施設が絡む場合は、撮影・利用に関する施設側の規約も別途確認しておいたほうが安心です。
3. 商標・製品・ブランドロゴの写り込み
「街を歩く人物」といった何気ない発注内容でも、AIが学習データの影響で特定ブランドを想起させる意匠(車のエンブレム、看板デザインなど)を生成してしまうことがあります。
自社の広告・PR用途で使う動画に、意図せず他社ブランドが写り込んでいた、というのは避けたいトラブルです。 納品前のチェックポイントとして、制作会社に確認を依頼しておくとよいでしょう。
4. 参照素材そのものの権利関係
制作の際、イメージに近い既存の映像や画像を「参考にしてほしい」と共有することもあると思います。 その参照素材自体の権利関係がクリアになっているかも大事なポイントです。
ニュース映像や他社の広告映像、SNSで見つけた誰かの動画などを無断で参照素材として渡すのは避けたほうがいいですね。 制作側・発注側共に用意する参考資料についても、出所を意識しておくと安心です。
5. 実写のアニメ化・スタイル変換
自社の紹介動画や社員インタビューを、アニメ風・イラスト風に変換したいというご要望も増えてきました。 この場合は二重の注意が必要です。
ひとつは、映像に映っている社員・関係者本人からの肖像権の使用許諾。
もうひとつは、特定のアニメ作品・イラストレーターの画風を指定してしまうことです。
「〇〇風のアニメで」「〇〇のような雰囲気で」といった、特定作品・特定作家名を名指しした発注は、画風模倣として著作権上グレーな領域に踏み込みやすいので、制作会社とすり合わせながら進めるのが安全だと思います。
6. モデルのライセンス上の地域制限
著作権法とは別に、制作会社が使用するAIモデルのライセンス条件自体にも気をつけたいところです。
例えばMiniMax H3は、米国・EU・英国・韓国が利用規約上の「除外地域」に指定されていて、この制限は生成物の利用にも及ぶとされています。
発注する側として、この2点は頭の片隅に置いておくといいかもしれません。
・使用する生成AIの契約条件が商用利用可能になっているか。以後も継続して使用できるか。
・納品先・配信先が海外の場合は注意。
海外展開を予定している企業様は、特にこのあたりを制作会社に確認しておくと安心です。
7. 音声・声のクローン
声の音色をクローンしてセリフを演技させる機能を持つモデルも登場しています。 自社の社長や社員、あるいはナレーターの声をクローンして使いたい、というニーズも出てくるかもしれません。
その場合、必ず本人または権利者からの許諾を得た音源を使う必要があります。 無断でのクローンは、肖像権と同様に本人の権利侵害にあたる可能性があります。
なお、著作権法上の問題とは別に、モデルの商用利用条件自体も要チェックです。
「商用利用可」と書いてあっても、無料プランでは商用不可、有料プランのみ可というケースが一般的で、案件の規模によって追加許諾が必要になる場合もあります。 発注前に、制作会社側で最新の利用規約を確認してもらう習慣をつけておくと安心です。
Adobe Fireflyは「唯一安全なAI」と言えるのか
「Fireflyだけは著作権的に安全」というイメージを持っている制作者・発注者の方、結構多いのではないでしょうか。 私も気になって調べてみたのですが、実際は「絶対安全」というより「他社より安心設計」というのが実態に近そうです。
Fireflyが評価される理由は、学習データの出所にあります。
多くの生成AIがネット上のデータを無断で学習している可能性があるのに対し、FireflyはAdobe Stockの画像やパブリックドメイン素材など、使用許可が明確な素材のみを学習に使っています。
性能面については、正直まだ発展途上な印象が…
画像・動画生成に関しては、他の生成AIと比べると使用は案件によるかと思います。
つまり「Fireflyだから安心して丸投げできる」というよりは、権利面の安全性を重視しつつ、表現力が必要なカットは他のモデルと組み合わせて使う、という判断が現実的かもしれません。
著作権を侵害してしまったらどうなるのか
ここは私も専門家ではないので、簡単に触れる程度にしておきます。
万が一、納品された動画が著作権侵害にあたってしまった場合、大きく分けて2つの責任が発生し得ます。
- 動画の公開停止や、損害賠償の請求を受ける可能性があります。
- 著作権侵害は犯罪行為でもあり、著作権法上は重い罰則も定められています。
法的な話に加えて、実務上のダメージも大きいです。
既に放映・配信済みの動画の差し替えコスト、ブランドイメージの毀損、取引先や消費者からの信頼低下など、企業として一番避けたい事態につながりかねません。
「制作会社に発注していたから大丈夫」ではなく、発注者側としても最低限のリスクを把握したうえで、信頼できる制作会社を選ぶことが重要になってきます。
※この章はあくまで一般的な情報整理であり、法的な助言ではありません。
実際の案件で不安がある場合は弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
発注時の確認チェックリスト
企業としてAI動画生成を使った制作を依頼する際、事前に確認しておきたい項目をまとめてみました。
制作会社との打ち合わせの参考にしてください。
- 制作会社が使用するAIツールの利用規約を把握しているか(商用利用の可否・地域制限など)
- 参照素材(実写映像・画像・音声)の権利関係を、制作会社側で確認してくれているか
- 映像に映る社員・関係者本人から、肖像権の使用許諾を得ているか
- 発注時の要望(〇〇さんみたいな、〇〇風のアニメで等)が、そのままAIへの指示に入っていないか
- 制作物の中に実在の有名人を想起させる容姿・声、また著名なロゴ・イラストに似ているものなどが含まれていないか
- 背景に他社ブランドのロゴ・製品・建築物が意図せず写り込んでいないか
- 動画の用途(SNS投稿、広告、海外展開など)を制作会社に明確に伝え、それに応じたライセンス条件を満たしているか
確認に限度がある部分もありますが、Googleの画像検索やAI自身に調べさせるなど、最低限できることはすべきかと考えています。
制作会社選びで見ておきたいポイント
発注者としてすべてを自分でチェックするのは現実的ではありません。
だからこそ、著作権まわりのリスクをきちんと理解し、事前に説明してくれる制作会社かどうかが、実は一番大事な判断基準になると思います。
私も制作依頼を受ける立場として、以下のことは制作会社の役割として大事になってくると思います。
- 使用するAIツールやモデルの利用規約を把握し、案件に応じて説明する
- 納品前に、既存キャラクターや実在の人物との類似性を確認する工程がある
- 契約書で著作権・肖像権まわりの取り決めを明記してくれる
- 「AIだから何でもできます」ではなく、リスクも含めて相談に乗る
逆に「AIなので著作権は気にしなくて大丈夫です」と言い切ってしまう制作会社は、少し心配かもしれません。
まとめ
AI動画生成の著作権リスクは、キャラクターやロゴの模倣だけでなく、実在の人物の肖像権・パブリシティ権、建築物やブランドの写り込み、参照素材そのものの権利関係、画風模倣、声のクローンなど、思っている以上に多岐にわたります。
「AIはみんな使い始めたし大丈夫だろう」という意識ではなく、リスクをきちんと理解した上で制作を進めるべきかと思います。
そんな私も生成AIを実際のお仕事で使い始めていますので「AIを使った動画制作を検討しているけど、著作権まわりが不安…」という方は、お気軽にご相談ください。
リスクも説明しながら、安心していただける制作を心がけています。









